条例違反による「公表」に対する名誉毀損訴訟の経緯と判決について
【はじめに】
この裁判は軽井沢町南ヶ丘にあるエロイーズ・カフェを運営する軽井沢総合研究所が、「自然保護のための土地利用行為の手続き等に関する条例」に違反したとして、不当に社名を公表されたとして軽井沢町に損害賠償を求めた訴訟です。裁判は3年にわたり行われました。令和7年1月30日に長野地方裁判所上田支部で3人の裁判官によって判決が出され、軽井沢町へ110万円の賠償金を払うことが命じられました。
訴訟の問題点と裁判所の判断をここに記載します。
原告(軽井沢総合研究所・代表土屋勇磨)が協議書を何回提出しても、被告(軽井沢町・担当・環境課係長 土赤淳)は受け取らず、そのやりとりが13回にも及びました。これは大きな問題となっています。軽井沢町が設定した公表までの期限は大変きびしい内容と要求で、原告は期限内に協議を終えようと努力しましたが、近隣住民に1件ずつ面談することや、テラスの移動や営業時間の短縮など、条例や要項の定めを超えた理不尽な要求ばかりでした。公表ありきで意地悪をされたという印象しかありません。
【裁判所の判決文による4つの争点】
争点1:本件条例8条の合憲性
ここでは本件の経緯を具体的に示し、行政の指導内容が不明という箇所が何カ所か指摘され、「指摘事項の具体的な内容は明らかでない」と行政指導の不明な点が書かれています。
争点2:本件勧告に応じない正当な理由の有無
ここでも行政指導を認めたようなことは何も書かれていません。むしろ、24頁ウに書いてあるように「被告の不当な行政指導によって協議書が受理されなかった」ことや、 「不相当な行政指導を続けることによって協議書の不受理の事態が続いた場合、公表という社会的制裁を科すのは相当ではない」とここではっきり述べています。
争点3:本件公表の手続的の有無
これについては手続きに関することなので、特に述べた内容がありません。
争点4:損害の有無及び額
ここでは名前公表による損害賠償について書いています。軽井沢町の主張が通ったと言えるのはこの損害の金額のことだけです。
【裁判所の判断】
1.近隣説明経過書について
被告は令和2年1月31日に原告から提出された協議書⑬(軽井沢町に提出した13番目の協議書のこと)に近隣住民説明経過書対象者の意見が報告されていないので十分な内容でないとして受理せず本件公表に至ったが、本件条例・規則において、近隣住民説明経過書に対象者の意見を記載したり、それに対応する内容を記載したりすることが必要である旨の定めはない。自然保護対策要綱第5・第6を見ても必要不可欠とされているとは解せない。
2.近隣説明許可のタイミングについて
本件公表までの期限が令和2年1月31日であるが、被告が原告に対し、近隣説明をしてよい旨指示したのは本件期限の10日前の令和2年1月21日である。しかも対面で意見を聞くよう指導した。これは近隣住民の対応次第であってこれらの手続を10日間のうちに完了することは相応の困難と言わざるを得ない。
遅くとも協議書⑧の提出時点である令和元年12月5日の時点では土地利用行為の概要が決まり、近隣説明をすることが可能だったというべきである。したがって同日時点でもなお近隣説明するよう指導しなかった被告の対応は合理性に乏しいと言わざるを得ない。
3.その他の指導について
協議書⑥に対し、テラス部分の利用につき問題がないようにすること、午後11時までの営業時間を再検討すること、シェアハウスの賃貸借契約の概要を記載すること等と被告は指導して協議書を返却している。しかしシェアハウスは既に営業が判明している状況で、その後に出された協議書④が提出された令和元年6月18日で指摘し得たというべきであり、同年11月29日まで指摘されなかったことに合理的な理由は見出せない。テラス席の利用を制限する根拠は証拠上見当たらず、本件当時の被告の土赤淳の供述を踏まえても、指導自体に合理的な理由があるとは認められない。さらに、営業時間に関する指導についても午後11時までは店舗営業は可能であることからすると合理的な理由があるとは認められない。
したがって、協議書⑥を返却する時点で行われた被告の行政指導はその合理的根拠を欠く不相当なものである。早期に行うことができたはずのものであり、これらの行政指導に従って原告が対応を継続したことにより、本件期限(又は近隣説明の実施)までの時間が費やされたことは原告に帰責すべきものではない。(計画的に遅らせたと思われても仕方がない)
【正当な理由の有無】
① 本件勧告後に出された協議書⑥に対する被告の行政指導はその内容や指導の時期の点で合理性を欠く。
② 遅くとも令和元年12月5日の時点で近隣説明をすることが可能であったはずであるのに、被告が近隣説明をするよう指導しなかった。
③ 住民との間で意見調整を図るとしても、被告が実際に近隣説明をするよう指導してから本件期限までの短期間に意見調整を図ることは相当困難である。
④ 本件期限に提出された協議書⑬は本件条例・規則に照らしても実質的な不備があるとは認めがたい。
これらの事情を総合的に考慮すると、原告としては本件勧告を受け、本件期限までに本件条件・規則に照らして十分な内容の協議書を提出するよう努めたにもかかわらず、被告の行政指導によって協議書が本件期限までに受理されなかったものであり、かつ行政指導に合理性があるとはいえないと評価すべきである。
【まとめ】
「カフェをオープンしてから3年近く、被告は何も指導していない
平成27年夏頃から平成30年4月までの間、被告が原告に事前協議の手続きを進めるよう指導したとは認められず、事前協議を終えていない期間が長期にわたったことにつき、専ら原告にのみ責任があるとも言い難い」
判決文29頁3「本件公表は国家賠償法1条1項の適用法上違法と評価すべきであるとともに、本件公表を行った被告は過失があると認められる」と明確に述べています。
【おわりに】
令和7年2月20日の信濃毎日新聞で「軽井沢町に110万円賠償命令」の記事が掲載されました。その中で土屋町長のコメントとして「その他の請求については町側の主張が全面的に認められた。従って控訴を断念せざるを得ない」と記されていました。
しかし、このコメントは判決の内容を正しく伝えていません。むしろ、真逆のことを言っています。おそらく町長は判決文をよく読んでいないのではないかと思われます。
原告は一部を認められたのではなく、ほぼ全面的に認められた勝訴です。
なお、賠償金が110万円という少額であっても私たちが控訴しなかったのは、原告の意見が全面的に認められたという裁判所の判断があったからであり、支払うお金が町民の税金であることを考慮したからです。
判決では軽井沢町の行為の違法性が認められましたので、前時代的で横暴な役人体質はこれを機に根本から反省し、自治体として然るべき誠意ある対応を取られることを望みます。
軽井沢総合研究所 代表 土屋勇磨